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新潟地方裁判所六日町支部 昭和48年(ワ)19号 判決 1975年10月30日

原告

高橋和子

ほか一名

被告

田中義泰

ほか一名

主文

一  被告らは原告高橋和子に対し連帯して金一二五万一、三四二円およびうち金一一八万一、三四二円に対する昭和四七年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告高橋久賀に対し、被告田中義泰は金五万八、二三五円およびこれに対する昭和四七年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被告上村昭は金九万二、三六〇円およびこれに対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用のうち、被告らと原告高橋和子との間に生じた部分はこれを七分し、その五を同原告の、その二を被告らの負担とし、被告らと原告高橋久賀との間に生じた部分はこれを五〇分し、その四九を同原告の、その一を被告らの負担とする。

五  この判決は、主文第一、二項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは連帯して原告高橋和子(以下原告和子という。)に対し、金四六二万八、八九六円およびうち金四三七万八、八九六円に対する昭和四七年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告高橋久賀(以下原告久賀という。)に対し、被告ら連帯して、被告田中義泰(以下被告田中という。)は金四四二万四、七六〇円およびうち金四一七万四、七六〇円に対する昭和四七年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被告上村昭(以下被告上村という。)は金四四七万三、五一〇円およびうち金四二二万三、五一〇円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和四七年九月二四日午前一一時三〇分ころ

(二) 発生場所 新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢二、八五五番地先交差点

(三) 加害車 普通乗用自動車(足立五む九七七〇号)、運転者被告上村

(四) 被害車 自動二輪車、運転者原告和子

2  原告和子の受傷および治療経過等

右事故により、原告久賀所有の被害車が修理不能の状態に破損するとともに、原告和子は脳挫傷の傷害を受け、そのうえ、事故時の衝撃のため妊娠中(出産予定日が昭和四七年一〇月一八日)の胎児を首部臍帯纒絡により死亡させ、事故当夜女児を死産した。そして、原告和子は、右事故当日から昭和四七年一〇月六日まで(長岡赤十字病院入院期間は昭和四七年九月二六日から同年一〇月六日までの一一日間)入院し、その後四日間同病院に通院して治療を受けたが、現在もまだ頸部と肩部とに痛みが残り鍼マツサージ治療を受けている状態であるうえに、妊娠不可能の身体ともなつた。

3  責任原因

(一) 被告田中は、本件事故当時、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

(二) 被告上村は、本件事故当時、加害車を運転し、国道一七号線を長岡市方面から東京方面に向い進行中、自動車運転者としては前方を注視するとともに、交差点において右折を開始している車両がある場合には停止もしくは最徐行して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、原告和子が国道一七号線を長岡市方面から東京方面に向つて進行してきて同道路と神弁橋方面から湯沢駅前通り方面に通じる道路との前記交差点手前で道路左側から中央寄りに進路を移したうえ、合図をしながら右交差点を湯沢駅前通り方面に右折しようとしていたのに気づかず、そのままかなりの速度で進行を続けた過失により、加害車を被害車に衝突させ、本件事故を発生させた。

(三) 従つて、被告田中は本件事故による人損につき自賠法三条の、被告上村は人損、物損につき民法七〇九条の各責任がある。

4  損害

(一) 原告和子の受けた損害 合計四六二万八、八九六円

(1) 治療中休業による損害 一五万一、七七三円

原告和子は、本件事故当時満二五才(昭和二二年六月一八日生)の主婦で、家事に従事するとともに、夫の原告久賀が営む寿司業の手伝いをしていたものであるところ、本件事故による前記受傷のため、事故当日より昭和四七年一二月末日までの三か月以上の間右家事等に従事できなかつた。

労働省労働統計調査部作成の昭和四六年全産業女子労働者企業規模計平均賃金によると、二四才の女子労働者の月額平均賃金は四万〇、三〇〇円、年間平均賞与額は一二万三、五〇〇円である。

従つて、原告和子が本件事故による受傷のために就業できなかつた三か月間の損害は一五万一、七七三円((40,300円+123,500円÷12か月)×3か月=151,773円)である。

(2) 治療費 七万一、七五三円

長岡赤十字病院分三万七、四五三円および湯沢診療所分三万四、三〇〇円の計七万一、七五三円。

(3) 入院中付添費 三万円

原告和子が長岡赤十字病院に入院した一一日間、森下サクに付添看護を依頼し、同人に支払つた三万円。

(4) 入院中の雑費 三、三〇〇円

一日三〇〇円の割合で長岡赤十字病院入院期間一一日分計三、三〇〇円。

(5) 通院のための交通費 三、三六〇円

原告和子が長岡赤十字病院に通院した四日間の国鉄上越線越後湯沢駅から長岡駅までの乗車賃(一往復八四〇円)四往復分三、三六〇円。

(6) 子守代 四万円

原告和子が、昭和四七年九月二五日から同年一二月九日までの間五才と二才の二児の子守を伊藤佶に依頼し、同人に支払つた子守代四万円。

(7) 慰藉料 四〇二万八、七一〇円

原告和子は出産予定日を目前に控え、初の女児の誕生を期待していた矢先に本件事故のため正常に成育していた胎児の生命を断たれた。原告和子の精神的苦痛は余りにも大きく、これを慰藉するには四〇二万八、七一〇円が相当である。

(8) 弁護士費用 三〇万円

原告和子は本訴の提起ならびに遂行のため弁護士中沢利秋、同佐藤伍一郎に訴訟代理を委任したが、右両弁護士にその手数料として五万円を既に支払つたほか、第一審判決言渡の日に謝金として二五万円を支払わなければならないので、計三〇万円。

(二) 原告久賀の受けた損害 合計四四七万三、五一〇円

(うち人損分四四二万四、七六〇円)

(1) 休業損害 五万円

原告久賀は、原告和子の夫で寿司業を営んでいるものであるが、本件事故によつて原告和子が受傷したために、五日間全く休業せざるをえなかつた。原告久賀の寿司業の売上高は一日平均三万円を下ることはないが、経費を控除しても一日一万円の純利益をあげえた。

従つて、五日間分の休業による損害計五万円。

(2) 葬儀費用 四万六、〇五〇円

死産児の葬儀費用として支出した四万六、〇五〇円。

(3) 被害車破損の損害 四万八、七五〇円

(4) 慰藉料 四〇二万八、七一〇円

原告久賀は、原告和子と同様、初の女児の誕生に期待を寄せていた矢先に本件事故により胎児の生命を断たれた。その精神的苦痛の大きさからすれば、これを慰藉するには四〇二万八、七一〇円が相当である。

(5) 弁護士費用 三〇万円

原告久賀は本訴の提起ならびに遂行のため弁護士中沢利秋、同佐藤伍一郎に訴訟代理を委任したが、右両弁護士にその手数料として五万円を既に支払つたほか、第一審判決言渡の日に謝金として二五万円を支払わなければならないので、計三〇万円。

5  よつて、原告和子は被告らに対し、連帯して前記損害合計四六二万八、八九六円およびうち弁講士費用の未払分を控除した四三七万八、八九六円に対する遅滞後の昭和四七年九月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告久賀は、被告田中に対し、右損害合計金より被害車破損による損害を控除した四四二万四、七六〇円およびうち弁護士費用の未払分を控除した四一七万四、七六〇円に対する遅滞後の右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告上村に対し、右損害合計四四七万三、五一〇円およびうち弁護費用の未払分を控除した四二二万三、五一〇円に対する遅滞後の右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中、被告上村が加害車を運転し、国道一七号線を長岡市方面から東京方面に向い進行していたこと、および加害車と被害車が衝突したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同(三)は争う。

4  同4の事実は不知。

三  抗弁

1  被告田中の免責の主張

(一) 本件事故当時、加害車には構造上の欠陥または機能上の障害はなかつた。

(二) 被告上村は、国道一七号線を長岡市方面から東京方面に向け進行してきて前記交差点にさしかかつたが、交差点の対面信号が青色信号を表示していたのでそのまま交差点を直進通過しようとしてその手前八メートルの地点に至つたところ、交差道路の信号が赤色を表示していたにもかかわらず、交差道路を左方の神弁橋方面から右方の湯沢駅前通り方面に向け交差点内に進入してきた被害車を発見し、咄嗟に右にハンドルを切るとともに急制動の措置をとつたが及ばず、被害車に交差点中央で衝突した。信号機による交通整理の行われている交差点を通過する車両運転者には、信号を無視して飛び出してくる車両のあることまで予測することは不可能であり、これを予測して運転しなければならない注意義務はないから、被告上村には何ら過失はない。

(三) 右のとおりであるから、本件事故は原告和子の一方的過失によるものであつて、被告田中に責任はない。

2  被告らの過失相殺の主張

仮に本件事故が原告ら主張のように原告和子が長岡市方面から湯沢駅前通り方面に向い右折中の事故であつたとしても、車両が道路を右折する場合は、その手前三〇メートルから右折の合図を出し、かつ、道路中央に寄つてから右折を開始しなければならないにもかかわらず、原告和子は、右折の合図をしたとしても、それは交差点手前二〇メートルの地点であつたうえに、道路中央寄りに進路を移すことなく、道路の左側から被告上村運転車両(加害車)の直前を右折しようとした。この点で、原告和子には本件事故につき過失があるので、原告らの損害額の算定にあつては原告らに六〇パーセント以上の過失割合を斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

本件事故のため、原告久賀所有の被害車は修理不能の状態に損壊するとともに、原告和子は脳挫傷の傷害を受けた。また、同原告は、本件事故当時妊娠中(出産予定日は昭和四七年一〇月一八日)であつたが、事故時の衝撃により胎児は首部に纒帯纒絡を生じて死亡し、事故当日の昭和四七年九月二四日午後八時五〇分女児を死産するに至つた。

同原告は、右受傷のため、同日から同月二五日まで(二日間)湯沢診療所に、同月二六日から同年一〇月六日まで(一一日間)長岡赤十字病院にそれぞれ入院し、同月七日から同年一一月二八日まで(五三日間)同病院で通院治療(治療実日数四日)を受け、同日治癒した。

(なお、原告和子が現在も頸部、肩部が痛み、治療を受けていること、および本件事故のため同原告が妊娠不能の身体となつたことは、いずれもこれを認めるに足る証拠はない。)

三  被告らの責任原因の存否について検討する。

1  被告田中が本件事故当時加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

2(一)  前記当事者間に争いなき事実に〔証拠略〕を総合すると次の事実を認めることができ、右認定を左右しうる証拠はない。

本件事故現場は国道一七号線(幅員一二メートルの平担なアスフアルト舗装道路)と神弁橋方面(幅員四・四メートル)から湯沢駅前通り方面(幅員九・一五メートル)に東西に伸びる道路との十字型交差点内である。事故当時は小雨が降つており、路面はぬれていた。

被告上村は、加害車両を運転し、国道一七号線を長岡市方面(北)から東京方面(南)に向い道路左側端から約二・七メートル内側を時速約五〇ないし六〇キロメートルで進行中、前記交差から四二メートル位手前で交差点の信号が青であるのに気づいたが、その直後に、交差点直前の、道路左側端から約三・一五メートル内側付近を自車と同方向に進行中の被害車を発見した。そこで被告上村はやや減速するとともに、右にハンドルを切つて進行したところ、被害車との距離約一六メートルに接近して被害車が湯沢駅方面に右折のため交差点内をその中央に向つて進行しているのに気づき、衝突の危険を感じて急制動をかけるとともにハンドルを右に切つたが及ばず、交差点の中央附近で自車左前部を被害車右後部に衝突させた。

原告和子は国道一七号線を長岡市方面から前記交差点に向い道路左側端から約一・一メートル内側を進行し、交差点の約二〇メートル手前で前方交差点の対面信号が赤色から青色表示に変つたので方向指示灯を点滅して右折の合図をし後写鏡には後方からの進行車両が写らなかつたので交差点約一〇メートル手前辺りから徐々に道路中央に進路を移し、交差点内に入り右折しようとしたところ、前記のとおり加害車に衝突された。

(二)  被告らは、被害車は神弁橋方面から対面信号が赤色を表示していたのにこれを無視して交差点に進入してきた旨主張し、証人平賀勝江が同旨の証言をしているが、〔証拠略〕は、被告上村が本件事故直後に行われた実況見分に立ち会い、被害車の進路につき警察官に対し前認定のとおり指示説明していること〔証拠略〕に照らして、ただちに措信し難い。

(三)  右認定事実によれば、被害車は、被告上村がこれを発見する前から右折合図をしていたばかりか、発見したときには道路左側車線の中央よりやや右寄り付近を右折の合図をしながら進行していたのであるから、被告上村は自動車運転者として前方を注視して被害車の動静を早期に発見確認すべきはもちろん、発見後は減速徐行するとともに警音器を吹鳴して原告和子に警告を与えるか、もしくは交差点手前で一時停止し被害車が右折して自車線外に出るのを待つべきであつた。しかるに被告上村は、前方注視義務を欠いたため、被害車の発見が遅れるとともにその右折合図をも見落し、しかも減速はしたが徐行、警音器吹鳴義務ないしは停止義務を怠つて進行を継続したものであるから、被告上村には過失の存在を肯認することができる。

また原告和子にあつては、加害車が後方から直進接近してくるのを見落した点で後方の安全確認が不十分であつたうえに、交差点から三〇メートル手前で右折の合図をすべきところを二〇メートル手前でこれをして加害車の前方を右折しようとしたものであり、これが本件事故の一因をなしていると認められるから、原告和子にも一部の過失があつたことを否定することはできない。そして、前記認定の諸事情を総合して考えると、本件事故発生に寄与した原告和子、被告上村双方の過失の割合は、被告上村七に対し原告和子三をもつて相当と解する。

右のとおりであるから、結局、被告田中は本件事故による人損につき自賠法三条の、被告上村は本件事故による人損、物損につき民法第七〇九条の各責任を負うべきである。

四  そこで、原告らの蒙つた損害について検討する。

1  原告和子の損害 一二五万一、三四二円

(一)(1)  治療中の休業損害 七万三、二一九円

前記認定事実、甲第四号証、〔証拠略〕を総合すると、原告和子は、本件事故当時、夫原告久賀との間に四才と一才の二人の男児をもつ二五才(昭和二二年六月一八日生)の主婦であり、家事に従事するとともに夫の寿司業の手伝いしていたものであるが、これには、前記入院中の一四日間は全く従事することができなかつたし、通院治療期間中の五三日間は健康時の二分の一程度しか従事できなかつたことが認められる。通院治療中のみならず、その後も昭和四七年末まで同原告が家事等を全くすることができなかつた旨の〔証拠略〕部分は、〔証拠略〕に照らして措信できないし、他に右認定を左右すべき証拠はない。そして、家事労働に専念する妻は、女子雇傭労働者の平均賃金に相当する財産上の利益を挙げるものと推定するのが相当であるところ、労働省作成の昭和四六年度「賃金構造基本統計調査報告」中の「パートタイム労働者を含む労働者の年令階級別きまつて支給する現金給与額および年間賞与その他の特別給与額」(表)によると、二五才ないし二九才の女子労働者についての企業規模計、学歴計による、月間きまつて支給する現金給与額は四万三、五〇〇円(昭和四七年の一日分は右金額の一二倍の三六六分の一)、年間賞与その他の特別給与額は一三万九、七〇〇円(同一日分は右金額の三六六分の一)となる。従つて、原告和子の休業による損害は次のとおり七万三、二一九円となる。

(1) 入院中の損害

(43,500×12×14/366)+(139,700×14/366)=25,310円

(2) 通院中の損害

{(43,500×12×53/366)×1/2}+{(139,700×53/366×1/2}=47,909円

(1)+(2)=73,219円(以上いずれも円未満切捨て)

(2)  治療費 七万一、七五三円

〔証拠略〕によれば、原告和子は湯沢診療所に三万四、三〇〇円、長岡赤十字病院に三万七、四五三円の治療費を支払つたことが認められる。

(3)  入院中の付添費 一万六、五〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告和子は長岡赤十字病院入院中の一一日間付添を必要とし、知人の森下サクにこれを依頼したことが認められる。〔証拠略〕には右森下サクに三万円を支払つた旨の記載があるが、〔証拠略〕によれば同人には同時に子供の世話をも依頼したことが認められ、右三万円中にはその報酬分も含まれているものと推認されるので、〔証拠略〕の記載をそのまま付添費認定の証拠として採用することはできない。しかるところ、右の諸事情を勘案し、一日一、五〇〇円の割合による一一日分合計一万六、五〇〇円が原告和子の付添費支払による損害と認めるのが相当である。右金額を超える分は本件事故と相当因果関係がないと認める。

(4)  入院雑費 三、三〇〇円

原告和子は、長岡赤十字病院に一一日間入院したことは前記認定のとおりであり、右入院中一日三〇〇円の割合による一一日分合計三、三〇〇円の雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。

(5)  通院のための交通費 三、三六〇円

〔証拠略〕によれば、原告和子は前記のとおり長岡赤十字病院に四回通院したが、その際国鉄上越線越後湯沢駅から長岡駅まで電車を利用する必要があり、その乗車賃として一往復八四〇円の割合で四往復分合計三、三六〇円を要したことが認められる。

(6)  子守代 一万九、五〇〇円

〔証拠略〕によると、原告和子は、前記認定の入院ならびに通院治療期間のうち六五日間二児の子守を必要とし、これを実父の伊藤佶に依頼したことが認められるので、原告和子はその子守代として一日三〇〇円の割合で合計一万九、五〇〇円の損害を蒙つたものと認められる。〔証拠略〕によれば伊藤佶に対しては子守代として四万円を支払つたことが認められるが、前記認定のとおり原告和子は通院期間中全く家事等に従事できなかつたわけではないこと、そのうえ、同人は子守のみに専念していたわけではないこと(〔証拠略〕)等の事情に照らすと、伊藤佶に対する子守代は前記認定のとおり一日三〇〇円と認めるのが相当であり、右金額を超える分は本件事故と相当因果関係がないと認める。

(二)  過失相殺

右(一)の(1)ないし(6)の損害合計は一八万七、六三二円となるところ、原告和子の本件事故における前記過失(三割)を斟酌すると、その額は一三万一、三四二円(円未満切捨て)となる。

(三)  慰藉料 一〇〇万円

前記認定にかかる本件事故の態様、原告和子の受傷の程度、治療経過、とりわけ出産予定日を目前に控えて死産を余儀なくされた同原告の精神的苦痛、事故発生について原告和子にも過失のあつたこと、その他諸般の事情を考慮すると、原告和子の請求しうる慰藉料は一〇〇万円をもつて相当と認める。

(四)  弁護士費用 一二万円

〔証拠略〕によれば、原告和子は、被告らが本件損害の任意の支払に応じないので、本件訴訟の提起と遂行を原告和子訴訟代理人に委任し、新潟県弁護士会所定の基準に基づく手数料五万円を既に支払い、謝金については第一審判決言渡の日に二五万円を支払うことを約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、原告和子の前記請求認容額(合計一一三万一、三四二円)、証拠蒐集等本件訴訟にあらわれた諸事情を考慮すると、本件事故による損害として被告に請求しうる弁護士費用は一二万円が相当である。

2  原告久賀の損害 九万二、三六〇円(うち人損分五万八、二三五円)

(一)(1)  休業損害 二万円

前記認定のとおり原告久賀は同和子の夫で寿司業を営んでいるものであるが、〔証拠略〕によれば、右営業による純利益は一日平均一万円であるところ、本件事故による原告和子の入転院や死産児の葬儀のため右営業を休業せざるをえなかつたことが認められるが、前記認定の傷害の部位、程度、治療経過、入院中の付添を依頼したこと等の諸事情に照らせば、右事情により必要とした休業日数は二日間、損害合計二万円と認めるのが相当であり、これを超える分は本件事故と相当因果関係がないと認める。

(2)  葬儀費用 四万六、〇五〇円

〔証拠略〕によれば、前認定の死産児の葬儀をなし、その費用として四万六、〇五〇円を要し、同額の損害を蒙つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3)  被害車破損による損害 四万八、七五〇円

〔証拠略〕を総合すると、前記認定のとおり本件事故により被害車は修理不能の状態に損壊したが、原告久賀はこれを昭和四六年一〇月一五日代金六万五、〇〇〇円で購入したこと、および、バイクの消却年数は通常四年であることが認められるから、同原告は右代金額の四分の三(四万八、七五〇円)の損害を蒙つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  過失相殺

右(一)の(1)ないし(3)の損害合計は一一万四、八〇〇円となるところ、原告和子の本件事故における前記過失(三割)を斟酌すると、その額は八万〇、三六〇円(人損分は四万六、二三五円)となる。

(三)  慰藉料

原告久賀は前記認定のとおり原告和子の夫ではあるが、原告和子が死産したことをもつてしても、同原告の受傷(死産も胎児に権利能力を認めないかぎり母体に対する傷害とみるほかない)による原告久賀の精神的苦痛が原告和子が死亡した場合に比してもまさるとも劣らないものであるとは認め難く、民法第七一一条の法意に照らし、原告久賀は慰藉料請求権を有しないというべきである。

(四)  弁護士費用 一万二、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、前記認定の原告和子の場合と同様本件訴訟の提起と遂行を原告久賀訴訟代理人に委任し、同代理人に既に五万円の手数料を支払つたほか、第一審判決言渡の日に二五万円を支払うことを約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、原告久賀の認容額(合計八万〇、三六〇円)、証拠蒐集等本件訴訟にあらわれた諸事情を考慮すると、本件事故の損害として被告に請求しうる弁護士費用は一万二、〇〇〇円が相当である。

五  よつて、原告らの本訴請求のうち、原告和子が被告らに対し連帯して右損害合計一二五万一、三四二円およびうち弁護士費用の未払分七万円を控除した一一八万一、三四二円に対する遅滞後の昭和四七年九月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分、ならびに、原告久賀が、被告ら連帯して、被告田中に対し五万八、二三五円およびこれに対する遅滞後の右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、被告上村に対し九万二、三六〇円およびこれに対する遅滞後の右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める部分は、理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹中省吾)

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